少し古い(1991年)発癌機構に関する文献ですが、発癌機構解明の歴史的な背景を記しています。癌が発生する原因に関しての概要は、今(2010年)とあまり変わりません。少しだけ、専門的に癌発生のメカニズムを解説しております。
※この文献で使われている「癌」は、広義の「がん」と同じ扱いです。

私達人間の発癌主因は、喫煙及び、食生活に侵入した化学発癌物質によるものと思われます。 そうした、私達の環境に散在する発癌因子により、正常細胞は、いかなる影響を被り、どのような機構により癌細胞へと変貌していくのか? 現代、わが国で疾病による死因の第一位を占める人類の敵「癌」に、私達が対処していくためには、上記のことを解明することが、重要となってきます。

発癌機構を論じるにおいて、まず第一に発癌因子が正常細胞に与える影響について理解せねばならない。 三大発癌因子として、ベンツアトランセンなどの芳香族炭化水素、4ジメチルアミノアドベンゼンなどの芳香族アド化合物系、芳香族アミン系、ニトロソ化合物系、などに代表される化学発癌物質。 色素性乾皮症 の患者に、高い率で皮膚癌を発生させる紫外線。電離性放射線。そして、発癌性ウイルスがよく知られている。
化学発癌物質及び放射線は、いずれも細胞の遺伝子(DNA)を傷つけて、変異を起こす「突然変異誘発性」をもって、発癌に関与するものと思われる。一方、発癌性ウイルスにおいては、自身のもつ遺伝子を細胞の中で発現させ、その産物の働きにより細胞を癌化に至らしめるわけであるが、その遺伝子の種類と発現の違いにより、ポリオーマ、アデノ、SV40などのDNA型とRSV(Rous Sarcoma Virus)などのRNA型とに分けられる。 RNA型ウイルスは、RNAからの遺伝情報をDNAに写す(転写する) ための逆転写酵素 を有しているため、レトロ(逆の)ウイルスと称されている。
そして、このレトロウイルス(Rous Sarcoma Virus)発癌機構の研究成果が、化学発癌物質、電離性放射線を含めて、殆どの発癌因子による発癌機構を、統一的に考える上で大きな貢献をした。
次ページから、そうした研究の歴史を記し、後に考察を加えることにする。

RSV温度感受性変異株 (temperatare sensitive mutant) であるt s BKI及びt s NY68を感染させた細胞は、その培養温度条件により、「癌化⇔正常様」の制御を受ける。培養温度が37℃では悪性化形態を維持するが、培養温度を41℃にすると正常様形態へと変化する。

しかしながら、ウイルス自身の増殖は、両温度でも行なわれることにより、ウイルス増殖に関与する遺伝子以外に、温度変化によって、発現が制御される癌化に直接関係する遺伝子の存在が考えられた。後に、コロラド大学のエリクソン(Raymond L.Erikson)らによって、その遺伝子(sarcome gene 以下、Srcとする)によりコードされた蛋白質が同定された。さらに、カルフォルニア大学サンフランシスコ校のビショップ (John M. Bishop) らにより、ヒトを含む殆どの正常細胞にも、Src遺伝子類似の塩基配列が存在することが確認された。次に、Srcなどの「発癌関与遺伝子」が、種を越えて、よく保存されていることから、そうした遺伝子が正常細胞において、如何なる働きをしているのか ? が探求の的となった。

1983年、サル肉腫ウイルスの有する癌関与遺伝子が、PDGF(Platelet Derived Growsh Factor - 血小板由来増殖因子)と類似していることがわかり、V-Sisと称された。Sis遺伝子もまた、細胞由来のものであることが判明した。これらの発見によって、発癌関与遺伝子と呼ばれるものは、細胞増殖に関係した遺伝子であろうと考えられた。それから、次々に発癌関与遺伝子が発見され、その殆どが細胞分裂増殖に関する遺伝子群であることが確認された。

マサチューセッツ工科大学のワインバーグ(Robert A. Weinberg)らのグループは化学発癌物質の一つであるメチルコラントレンで癌化させたマウスより、DNAを抽出し、癌化していない別のマウス細胞(NIH3T3)に注入した。結果、細胞は癌化され、正常細胞から抽出したDNAでは、癌化が起こらないことを実験的に確認した。また、別のグループらは、自然発癌したヒト膀胱癌、肺癌、大腸癌、神経芽細胞種等より抽出したDNAをNIH3T3細胞に注入して、癌化をおこさせることに成功している。それらの研究実験により、化学発癌物質(メチルコラントレン)で変異を受けたDNA及び自然発癌細胞のDNAが注入された細胞において、そのDNA情報が発現され、癌化に関与したと考えられた。

さらに、ワインバーグらは、ヒト膀胱癌の発癌関与遺伝子であるT24をNIH3T3細胞に注入、精製を繰り返し、ついに発癌に直接関与する遺伝子のみを抽出した。(遺伝子のクローニング)そして、その構造を「プロット ハイブリダイゼーション法」という手法を使い、癌ウイルスであるハービー肉腫ウイルスの有する「Ras」という遺伝子に類似していることを確認した。

すでに、ウイルスRas遺伝子(V-Ras)の原となった、正常細胞の中にある遺伝子(Proto-Ras遺伝子)は、クローニングされていた。V-Ras遺伝子は、NIH3T3細胞を癌化させることができ、Proto-Ras遺伝子は、その機能を有しない」この違いは、一体 どこにあるのか?そうした中、アメリカ国立癌研究所のスコルニック(Edward M. Scolnick)らがワインバーグらと協力し、両方のDNA塩基配列を分析し、比べることに成功した。その結果、Proto-Ras遺伝子と、V-Ras遺伝子とは、たった一つの塩基が違っているだけと判明した。そのことが、Ras蛋白質の機能を狂わして、細胞を癌化に至らしめることがわかった。

その後も、ワインバーグらは優れた研究を続け、網膜芽細胞腫(Retino blastoma : レチノ ブラストーマ)より抽出した「RB遺伝子」と称する遺伝子が、今までの変異し活性化されて癌をひきおこす遺伝子とは異なり、そうした、癌遺伝子の活性を抑制する方向で働く「癌抑制遺伝子」であることを発見した。この「癌抑制遺伝子」については、後で記すことにする。

いままで、記述したことに考察を加え、まとめると、「本来は、正常細胞の中に存在し、細胞の増殖に関与する遺伝子(癌関与遺伝子)が、化学発癌物質 及び放射線、などの発癌因子の持つ、突然変異誘発性によって変異、あるいは失調し、細胞増殖機構に異常が起こった場合に、細胞は癌化する」と考えられる。

ここで、発癌因子の種は違っても最終的には、変異を受けての「癌遺伝子」の活性化、「癌抑制遺伝子」の失活ということで、発癌機構の概要を統一的に捉えることができるようになった。

次に、変異を受けて癌関与遺伝子となったものが、細胞分裂増殖の過程でどのように働き、細胞癌化に関与するのかを、一連の細胞分裂増殖の順序(細胞周期)に沿って、具体的に記述していくことにする。

細胞増殖は、細胞増殖因子が細胞膜上のリセプター(受容体-細胞膜上に増殖因子と結合する部位を持つ)に結合することにより開始されるが、増殖因子の種により、細胞周期上で働く位置が決まっている。

G0期(静止期)からG1期(S期への準備期)への移行は、PDGFに代表される、コンピテンツ増殖因子によってなされ、それから後のS期(DNA合成期)の移行に関しては、EGF(Epidermal Growth Factor 上皮増殖因子)、インスリンなどのプログレッション増殖因子が作用する。PDGF、EGF、いずれもチロシンキナーゼ活性を有している。

まず、PDGF(コンピテンス増殖因子)が、細胞膜上のリセプターに結合すると、Src遺伝子の標的蛋白質でもあるビンキュリンなどが活性化され、細胞膜上の流動性が変化する。それにより、細胞膜近辺の機能蛋白質はその障害作用を解かれる。そして、PIキナーゼが活性化されると、細胞膜上に在するホスファチジルイノシトール(PI)と呼ばれるリン脂質から、ホスファチジルイノシトール二リン酸が合成される。

一方、増殖因子と結合したレセプターはGTP結合蛋白質(グアニンヌクレオチド三リン酸結合蛋白質 以下、G蛋白とする)とコンタクトをとり、G蛋白質はホスホリパーゼCを活性化して、それにより、ホスファチジルイノシトール二リン酸がイノシトール三リン酸(IP3)とジアシルグリセロール(以下、DGとする)とに分解され、生じたDGによりCキナーゼが活性化される。

さらに、Cキナーゼにより、様々な細胞増殖機能蛋白質が活性化され、それらによりFos遺伝子が発現される。Fos遺伝子は、初期発現遺伝子と呼ばれ、他の類する遺伝子と連携し、細胞核内において、S期に入るための第一スイッチ(機能蛋白質をコードする)として働くものと思われる。本来、正常細胞内にあるFos遺伝子がウイルスに取り込まれ、変異しV-Fos遺伝子として癌を発生させるようになったものも見つかっている。(FBj-MuSV,FBR-MUSV,MK24)

G0期よりG1期への移行が成立すると、いよいよ、EGFなどのプレグレッション増殖因子が細胞膜上のレセプターに結合して、G1期⇒S期への移行が開始される。この過程においても、ヒト赤芽球症ウイルス(AEV)の癌遺伝子V - e r b Bの産物が、EGFレセプターと類似し、本来のEGFレセプターの働きとは異なり、EGFが結合していなくても、結合したと同じ様に機能して、「増殖せよ!」というシグナルを下流に常に送り続けることにより、癌化に関与する遺伝子が見つかっている。

話を元に戻そう。EGFが、レセプターと結合すると、細胞膜内のレセプター部位が変化して「増殖シグナル」が、コンピテンツ増殖因子と同様にG蛋白質を介在して、下流へと伝達される。G蛋白質は、リセプターからの「増殖シグナル」を下流の細胞質内の細胞増殖機能蛋白質に伝える働きと、その調節を媒介するトランスデューサーとしての役目を持ち、増殖因子と結合したリセプターによりGTP活性型となり、その働きを実行する。その後、自身の有するGTPase活性により、GDP不活性型となり、リセプターからの増殖シグナルを調節する。

前項で紹介したが、ヒト癌で発見された、変異したRas遺伝子の産物=Ras蛋白質もG蛋白質であり、GTPase活性が正常Ras蛋白質に比べて低く、また最近、発見されたGTP活性促進蛋白質は、正常型Ras蛋白質には働くが、変異を受けたRas蛋白質には働かないことがわかってきた。

即ち、変異したRas蛋白質は活性化したままの状態で留まり、「増殖シグナル」を癌遺伝子V - e r b Bの産物の働きと同じ様に、下流に常に流し続けることにより、細胞を癌化させることがわかった。

G蛋白の働きにより、その下流にある様々のシグナル伝達機能蛋白質が活性化され、増殖シグナルは細胞核内に達し、Myc遺伝子が発現される。そして、細胞はS期に入っていく。

Myc遺伝子については、ヒト癌で多くのMycファミリー遺伝子が見つかっていて、L-Myc遺伝子がヒト小細胞肺癌から、ヒト神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫からN-Myc遺伝子が発見され、胃癌、大腸癌、肺癌、乳癌などにおいて、その発現量が増しているとの報告がある。

さらに、バーキットリンパ腫では、Myc遺伝子部位が切断され、別の部位に移動(染色体 転座)することにより、そのコピー数を増やし、癌化に関与することがわかっている。

Myc遺伝子のみならず、Fos遺伝子、Sis遺伝子も、その発現を増加してやると細胞を癌化させることができ、細胞分裂増殖に関係する遺伝子の変異、発現異常が癌化に深く関わっていることが再確認できる。

次に、Myc遺伝子が発現してできる蛋白質の働きに関しては、東京大学薬学研究所の有賀らによると、DNAに結合し、DNA複製開始因子として機能していると報告されている。

細胞の分裂増殖は、幾重にも その制御メカニズムが存在し、S期に入るDNA複製においても「癌抑制遺伝子」と呼ばれる遺伝子郡によって制御されている。

「癌抑制遺伝子」の一種であるRB遺伝子がワインバーグらによってクローニングされ、ヒト網膜芽細胞腫において、RB遺伝子の変異欠失が癌化をおこすことは前述したが、ヒト外陰部癌の細胞から発見されたp53遺伝子も変異を受けて、本来の機能が正常に働かなくなり、癌化に関与することがわかっている。

以下に、DNA複製において、RB遺伝子、p53遺伝子などの「癌抑制遺伝子」がどのように関わっているのかを記述しよう。

EGFなどの増殖因子が結合したリセプターは、細胞内にチロシン活性部位を有し、G蛋白質などの機能分子を通してMAPキナーゼ、CDCキナーゼなどの細胞増殖機能蛋白質をリン酸化する。

MAPキナーゼは、核内にも存在する。CDCキナーゼは、酵母より発見され、ヒト細胞を含め、細胞周期の調整に重要な役割をもつ蛋白質であり、最近、G1期⇒S期の開始因子として注目を集めている。そして、細胞周期の進行に伴って発現されるG1サイクリン(Cycin)と複合体を構成し、RB遺伝子、p53遺伝子の産物蛋白質をリン酸化することがわかっている。

また、RB蛋白質はMyc蛋白質と相同するアミノ酸配列を有していて、CDCキナーゼにより、リン酸化されたRB蛋白質は、Myc遺伝子の発現制御に関与していることが示唆される。

前述したが、Myc遺伝子は、DNAの複製の開始因子としてDNA合成に携わり、国立癌センター研究所生物学部の田矢らによると、Myc蛋白は、Myc遺伝子のエンハンサーに結合して働き、G1サイリンの発現にも関与するとの報告がある。

即ち、Myc遺伝子は自身のMyc蛋白質により制御されていると考えれる。G1サイクリンなどの蛋白質も細胞の老化によりその発現が抑えられることと、Myc遺伝子が細胞の不死化に関与するという報告、癌ウイルスのSV40がもつ大型T抗原がRB蛋白質と複合体を構成し、RB蛋白の働きを抑制することで癌化に関与するとの報告などを、絡めて考えると非常に興味深い。

以上、細胞分裂増殖のメカニズムを簡略に記してきたが、細胞分裂増殖メカニズムと細胞癌化メカニズムは、本来、類するものであり、細胞分裂増殖の過程で発現される遺伝子の異常は、深く細胞癌化に関与するものである。

その具体例をまとめてみよう。

  1. 細胞増殖因子の増幅-発現 - PDGF(血小板由来増殖因子)に類似 V-Sis遺伝子
  2. 増殖因子レセプターの変異による増殖情報の一方的伝達 / 増殖因子レセプターの増幅
    EGFR(上皮増殖因子レセプター)に類似 e r b B遺伝子(ヒト扁平上皮癌)
  3. 細胞内機能蛋白質に対し、トランスデューサーとして働く、G蛋白質の変異
    増殖情報の一方的伝達 / 短絡    点突然変異したRas遺伝子(ヒト膀胱癌 ヒト肺がん)
  4. 細胞核内でDNA複製(S期突入)に関与する蛋白質をコードする遺伝子 異常
    染色体転座によるコピー数の増大 / 半減期の安定化 - Myc遺伝子(バーキットリンパ腫)
  5. 癌抑制遺伝子の欠失、異常
    RB遺伝子(ヒト網膜芽細胞腫)/ p53遺伝子(ヒト大腸癌  ヒト肺癌 など)

その他にも、癌関与遺伝子と呼ばれているものは数多くあるが、その中でもヒト癌で多く見つかっている Ras / Myc / RB / p53 の遺伝子異常は特に注目される。

以上、具体例として、一つの癌遺伝子が正常細胞を単独で癌化させるような記述をしてきたが、決してそうではない。

初期培養細胞にRas遺伝子を注入しても癌化には至らないが、長期培養した細胞(不死化した細胞)及びMyc遺伝子を強く発現させるようにした細胞(Myc遺伝子のみでは癌化しないもの)に対して、Ras遺伝子を発現させてやると、細胞は癌化するとの報告がある。

例えば、ヒト膀胱癌において、変異したRas遺伝子が大きな働きをしているのは、確かであるが、その膀胱癌細胞から抽出したRas遺伝子はin-vitro(培養器の中で)で長期培養の細胞は癌化に至らしめても、初期培養細胞を癌化することはできないのである。

即ち、Ras遺伝子などによる細胞分裂増殖の促進機能と、癌抑制遺伝子による細胞分裂増殖の抑制機能、さらに細胞不死化(細胞寿命の開放、延長)に関係する遺伝子、それらの発現異常(遺伝子の変異)が重なって、はじめて癌細胞が誕生するわけである。


これまでは、一つの正常細胞が癌細胞に変貌するメカニズムについて記してきたが、誕生した一つの癌細胞が増殖し、「癌」いう失病に発展するには、宿主の免疫監視を逃れることが必須となる。

細胞膜上には、宿主の免疫監視機構を発動させる腫瘍特異抗原が存在するため、宿主の免疫監視が正常に働いたならば、癌細胞の増殖増加はありえない。

故、「癌」として発病するには宿主の免疫監視機能の低下、癌細胞自身が免疫監視を逃れる術を有することが要求される。

「癌」として発病するには宿主の免疫監視機能の低下、癌細胞自身が免疫監視を逃れる術を有することが要求される。

それを証明する具体的な事項として

  1. ①「癌」の発生が老齢者に多くみられるのは、老化に伴う宿主の免疫監視の低下が因となっている。
  2. ②癌細胞膜上の抗原性が低いということも免疫監視を逃れる術となる。北海道大学の小林らは、癌細胞膜上の抗原が癌細胞自身が生産する酸性多糖類等で被い隠されているため抗原性の低下が見られるとの見解を出している。
  3. ③肝臓癌において、その癌細胞膜上にみられるαフェトプロテイン(ラット肝癌)が免疫抑制効果をもつことが報告されている。
  4. ④癌細胞に移植性があることより、その抗原性が低いこと、無ガンマグロブリン等の免疫不全患者に「癌」が多くみられること。

①〜④の事項が示すように、「癌」は、宿主の免疫監視の低下した状態から発生するのである。


おわりに (追記:Dec,2010)

この稿で記述してきたことは、癌の研究者でない人には、目に見えていないことばかりで、現実味がないように思われますが、「癌細胞は、どのようにして誕生するのか?」そのプロセスを探ることで、癌治療薬のアイデアが生まれ、新薬ができ、癌治療の道が開けてきます。

《「癌」に罹らない!「癌」と戦う 》ためには、《「癌」というものをよく理解することが重要である》それは、ゆるぎない真実です。

《 あとがき 》

癌の専門家でもない私が、このような文献を書くきっかけとなったのは、今から18年前、私の母が癌で亡くなった ことに始まります。当時、私は癌に関する知識が乏しく、母が苦しんでいるのに何もしてやることができませんでした。
そのことが、私の心の痛手となり、いつしか「癌とは一体、何ものなのか?」を、自分なりに勉強するようになりました。
そして、分子生物学という学問に出会い、その魅力に惹きつけられていきました。
分子生物学は、DNAの構造が解明されてから、まだ、日は浅いですが、その進歩は著しく、生命現象の根源を解明し、 癌化のメカニズムも、ある程度まで解明することができました。
この文献では、そうした分子生物学の研究成果を元に、私なりに「癌」を捉え、記述したものであります。
癌で苦しんでいる多くの方々や、そのご家族の方々に、この文献を読んで頂き、「癌」というものを少しでも理解して 頂けたら幸いです。